
SFプロトタイピング短編「Dワールド」が、2025年8月31日に刊行される『鏡の国の生き物をつくる SFで踏み出す鏡像生命学の世界』(藤原 慶 監修、大澤博隆 編、長谷川 愛 編、茜 灯里 著、柞刈湯葉 著、瀬名秀明 著、麦原 遼 著、八島游舷 著)に収録されます。
慶應大学で合成生物学の研究者・藤原慶さんを中心として、鏡像生命SFプロトタイピング・プロジェクトが行われました。私は5人の作家の一人として、本作を執筆しました。
「Dワールド」あらすじ――鏡像生命による新たな味と香りの価値を生み出す宇宙コロニー・Dワールドである研究者が「禁断領域」に踏み込んだ……。
我々生命は、基本的にL-アミノ酸でできています。D-アミノ酸はL-アミノ酸の鏡像となる構造を持つ物質です。もしL-アミノ酸と同等のD-アミノ酸がそろっていれば、D-アミノ酸を主体とする「鏡像生命」も生命活動は可能なはずです。またL生命にとってD物質は、化学的特性は似ていても匂いと味が異なることがあります。上野の国立科学博物館の地球館地下3階では、メントールとその鏡像物質の匂いを比較できるコーナーがあります。
一部の研究者は、鏡像物質からなる鏡像細菌の研究を危険視しており、2024年12月12日付けで、科学誌「Science」に声明を掲載しています。本プロジェクトの関係者はこの声明にも目を通したうえで、専門家である藤原さんの意見も伺いつつSF作品を書きました。