物語・言葉・想像力―なぜSFプロトタイピングなのか

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わくわくさせる物語の力

SFプロトタイピングが他の創作手法と異なる点は、まずSFそのものがわくわくする物語であるということです。単に未来を予測するだけでなく、「世界がこうなったら面白い」という好奇心が想像力をかき立てます。世の中がもっと便利になって、困ったこと、嫌なことがなくなったらどんなにいいだろう。ロボットがそこら中にいて面倒な仕事を全部やってくれたら楽じゃないか? 体の疲れを5分ですべてほぐしてくれたら楽だなあ――単純な願望かもしれませんが、実際の世界を動かしているのもそのような願望です。

SFは、日常では感じることがないセンス・オブ・ワンダー、あっと驚く衝撃、新しいものの見方を与えてくれることもあります。未来のことを考えるにしても、「そういう発想はなかった」という発想の飛躍力がSFにはあるのです。

ダークな未来を恐れるな

SFではダークな未来を描くことがよくあります。SFの物語では、核戦争、パンデミック、環境破壊、自然災害、AI反乱、宇宙人侵略など様々な理由で人類は滅亡、あるいは滅亡しかけます。そのような物語についてディスカッションしても興味深い結果が得られます。たとえば、そうならないためには何が必要なのかということです。

企業は自らのイメージに傷が付くことを恐れています。「お話」とはいえ「人が死ぬような話なんてとんでもない」「人類が全滅するような話はやめてください」と言われるかもしれません。しかし「世界がこうなったら恐ろしい」というスリルを感じるのもSF物語という形式だからです。

視覚化ではない物語と言葉の意味

SF映画なら見たのにSF小説は読んだことがない――よくある話です。視覚化したメディアは非常に強力、直接的で魅力的です。SFのイラスト、漫画化、アニメ化、映画化は、鮮烈なイメージを与えてくれます。SF作家も、程度の差はあれ、写真を参考にしたり、イラスト、地図、CGを自ら作成したりして執筆の助けにします。一方で、視覚化されていないSF小説だからこそ想像力を羽ばたかせる余地があるとも言えます。細部が見えないからこそ自分の想像力で考えることができます。これはアート思考やデザイン思考と違う点であり、SFプロトタイピングでは物語として一度完結させるほうがよいでしょう。

SFプロトタイピングでも視覚化はうまく活用できます。AI生成画像により新しいアイデアが出ることもあります。ただ、最初から視覚化するのではなく、物語について十分に議論したあとで視覚化するのがよいと思われます。

断片ではない完結した物語を書く

SFプロトタイピングでは短くても物語を完結させます。断片ではなく完結した物語を書くことが重要です。単に未来の生活の一シーンを描くだけでなく、具体的な登場人物が具体的な状況で、具体的に行動して結果をもたらします。サイバー義手の正義感あふれる警官がバイオテロと戦うのかもしれません。チーズからできた惑星で健康のためにヨガを広めようとする女性の話かもしれません。始めと終わりがある物語として完結していることで、「もっとこの物語の続きを読みたい」あるいは「自分で続きを書いてみたい」という欲求、想像力の連鎖が生まれます。

SF物語の登場人物は、ペルソナと似ている点もあります。ペルソナとは、企画やマーケティングで想定される具体的な人物像のことです。多くの場合は、調査や統計など客観的情報に基づいて設定されます。ペルソナは、必ずしも物語と結び付けられているわけではありません。SFプロトタイピングでは登場人物は物語に織り込まれ、物語と一体化しています。このことにより、読者から強い共感を得ることができます。またペルソナと違い、SFプロトタイピングの登場人物は、主観的に設定されています。プロのSF作家ならあえてありがちな人物像を避け、新鮮な人物像を提示して発想の枠を広げてくれます。

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