SFプロトタイピングで使われる物語には、基本的に触媒物語と地続き物語の2種類があると私(八島游舷)は考えています。この2種類の物語は、以下に示すそれぞれ別の手法で使われます。以下の2つの手法は、それぞれ長所短所があり、どちらか一方が優れているというわけではありません。この2つの手法を順番に行う、または繰り返すこともできます。これらは基本形であり、SFプロトタイピングにはこれ以外の手法もありえます。
触媒物語とは、SFプロトタイピング実施企業が作家に依頼をして執筆してもらう物語です。企業は最低限必要な情報のみを渡し、あとはSF作家の創造性にゆだねます。その後、完成した物語を元にワークショップをして議論します。このワークショップは物語を「読んだ」後に行います。物語「から」発想するともいえます。完成した触媒物語は、まさに触媒のように参加者に働きかけて考えさせ、化学反応を起こします。異質さが触媒物語の特色ともいえます。
ワークショップには作家自身も参加するほうがいいでしょう。SF作家は、良くも悪くも該当分野の専門家ではありません。参加者が予期する方向とはおそらく違う方向にボールを投げてきます。作家はそのまますぐに製品化できるようなアイデアはあえて書かないでしょう。いわばアート思考的な、プロ作家の想像力を活かして、予想もしなかった面白いアイデアが出るかもしれません。
地続き物語とは、SFプロトタイピング実施企業と作家などが話し合いながら共に執筆する物語です。この方法では、ワークショップしながら物語を「書き」、完成させます。できあがる物語は良くも悪くも現実と地続きです。参加者は、SFどころか物語を書いた経験もないかもしれません。SF物語としての品質を高めることが目的ではないので、SF作家以外の人がコーチすることもあります。地続き物語では、突飛なアイデアはなかなか出ないかもしれません。しかし、参加者が作家やコーチと直接対話し、自ら物語作成することでより主体的に取り組むことができます。またその議論の過程から新たなアイデアが出ることもあります。さらに、デザイン思考に近い着実な方法論を使うことで、実際の製品化に結び付けやすいという利点があります。とはいえ、現実とあまりに近い製品の物語を書くと、それはもはやSFではなくなります。SFの良さを生かすには、実現性に執着することなく自由に想像力を羽ばたかせるほうがよいでしょう。
これらの手法以外にも、新規に物語を作成せずに、既存のSF物語を読んで議論し、発想する手法もあります。これは地続き物語を後で作成するための練習として行うこともできます。