「スマート箱男」の世界へようこそ、案内役のネヅだ

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俺がこの世界の歩き方を教えてやる

よお、新入りか? 俺はネヅ。この道じゃあちいとばかし名の知れたベテランだ。この奇妙な世界で生き抜きたいなら、いくつか覚えとくべき言葉がある。ネタバレはなしだ。てめえの目で物語を確かめる前に、俺が最低限の歩き方を教えてやる。しっかりついてきな。じゃねえと、この街はてめえをあっという間に飲み込むぜ。


「スマート段ボール」:ただの箱だと思うなよ、こいつは俺たちの城だ

まず覚えとくべきは「スマート段ボール」だ。そこらのゴミとはワケが違う。こいつは俺たちみてえな社会の隅っこに追いやられた人間のための、たった一つの城であり、命綱なんだよな。ただの板切れに見えるかもしれねえが、中身は電子機器が組み込まれたハイテクな準IoT機器だ。軽くて驚くほど頑丈、おまけに耐水性もある。

あるブツさえありゃあ、声(プロンプト)一つで好きな形の箱に変形させたり、クッションを充填して寝心地を良くしたりもできる。表面には太陽電池が仕込んであるから電源にも困らねえ。気密性が高いから寒さをしのげるし、温度や湿度の調整だってある程度は可能だ。中からは外が見えるが外からは見えない「疑似ハーフ・ミラー」化もできるし、背景に溶け込んで姿を消せる「都市迷彩」機能は基本中の基本だな。圧力、近接、傾きセンサーも完備。こいつはただの家じゃねえ。いざって時には、てめえの身体を守る最後の鎧にもなるんだぜ。

笑えるよな。物流のための梱包材が、使い捨てにされた人間の家になるんだからな。

まあ、こんな便利なモンがあっても、街がおいそれと使わせてくれるわけじゃねえんだ。そこら中に「お前らは邪魔だ」っていう意思表示があるからな。


「敵対的建築」:街が俺たちに仕掛けてくるワナ

次に「敵対的建築」だ。これは街そのものが俺たちに仕掛けてくる、陰湿で静かな攻撃だよ。例えば、ビルの軒下にある地面の突起や、横になれないように真ん中に肘掛けがついたベンチ。あれ全部、俺たちみたいな人間が少しでも休んだり、寝泊まりしたりするのを防ぐためのもんだ。「ここに居座るな」っていう街からの明確な拒絶のサインだよな。

こんなもんは未来の話じゃねえ。今の世の中にもゴロゴロしてる。理屈は分からないでもないが、結局、俺たちをただ見えない場所に追いやりたいだけなんだ。

街から人間を追い出すだけじゃなく、人間の仕事まで奪っちまった、もっとデカい仕組みがあるんだ。それが『自動物流』ってやつだよ。


「自動物流」:人間いらずの超効率システム、俺の仕事もコイツに食われた

最後が「自動物流」だ。昔の道路も鉄道も、今じゃ全部こいつに置き換わっちまった。ドローンやロボットが荷物を運ぶ、人間いらずの超効率的な物流システムさ。おかげで世の中は便利になったんだろうが、俺みてえな人間はみんな仕事を失っちまった。俺は昔コールセンターで働いてたが、ロボットに仕事を奪われた。その後、長距離トラックの運転手になったが、それも今じゃこのザマだ。二度も機械に職を食われたわけだよ。

このシステムは、俺たちの住処であるスマート段ボールとも無関係じゃねえ。本来、スマ段は使い終わったらすぐにこのシステムに回収(還流)されちまうから、そこらに転がってることは滅多にねえんだ。皮肉なもんだよな。箱ン中に入って「貨物」として運ばれるんだが、横になって移動できるんだから、ファーストクラスみてえなもんだぜ。まあ、行き先は選べねえがな。

これで基本は分かっただろ。分かったか? 「自動物流」がてめえから仕事を奪い、住処のスマ段まで回収しちまう。やっと手に入れても、「敵対的建築」が街からお前を追い出す。全部繋がってんだよ。こいつは、俺たちみてえな人間を社会から完全に消し去るための、よくできた仕組みなんだ。あとは、あんた自身の目で確かめてみな

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