



SFプロトタイピングとは、企業・組織の依頼でSF作家が短編小説を執筆し、それを触媒としてイノベーションを起こし、新しいビジネスを開拓する活動です。
まずはこちらの2分動画をご覧ください。
もう少し詳しい6分の動画はこちらです。
なぜSF小説なのか?
SF映画とSF小説を比較して考えてみましょう。
SF映画(またはアニメ)では、大量の予算をつぎ込み、華々しい特殊効果で未来を描き出します。ロボットや宇宙船は、その目的、動作原理、細かい構造、来歴まで考えられ、具体的な形でストーリーの中に提示されます。受け手は完成品を受け取るだけで、想像力を働かせる余地はありません。
これに対して、SF小説では、作家は想像力を駆使して未来を頭の中で作り上げます。ロボットであれば、いつごろ、なぜ作られ、どんな動力で動くのか、できることとできないことはなにか……すべて具体的に考える必要があります。そして小説の場合は、読み手もまた、自らの想像力を使ってこれまでにないものを頭の中で再構築します。そこにまったく新しい製品やサービスが生まれる可能性があるのです。
これまでに数多くのSF作家が、ロケットやインターネットなどの技術を、それらがこの世に出る遥か以前に想像して小説の中で示しました。ジュール・ヴェルヌは『海底二万マイル』で潜水艦を、アイザック・アシモフは『我はロボット』でロボットを、ニール・スティーヴンスンは『スノウ・クラッシュ』でメタバースやアバターを。
ただ、SFプロトタイピングの物語は具体的な製品やサービスのアイデアをそのまま提示するのが目的ではありません。具体的な製品やサービスを考えるのは依頼側の仕事です。SF作家は、未来のシナリオを描いて示すことで「ヒント」を出します。1~数回のワークショップで依頼側とSF作家、あるいはその他の有識者が参加して議論を深めます。私はSFプロトタイピングのワークショップを企画・実施し、物語の執筆も行っています。
SFプロトタイピングにかかわるSF作家は、対象分野の専門家ではありません。依頼企業や組織では、長年同じ製品やサービスにかかわっていたために発想が固定化してしまっていることがあります。まったく異なる立場や経歴を持つSF作家が関与することで、これまでにない新鮮な考え方にたどり着くことができます。
実施例
対象となる分野はなんでもありです。いかに最近の実例をご紹介します。


慶應大学で合成生物学の研究者・藤原慶さんを中心として、鏡像生命SFプロトタイピング・プロジェクトが行われました。私は5人の作家の一人として、本作を執筆しました。SFプロトタイピング短編「Dワールド」が、2025年8月31日に刊行された『鏡の国の生き物をつくる SFで踏み出す鏡像生命学の世界』(藤原 慶 監修、大澤博隆 編、長谷川 愛 編、茜 灯里 著、柞刈湯葉 著、瀬名秀明 著、麦原 遼 著、八島游舷 著)に収録されました。
「Dワールド」あらすじ――鏡像生命による新たな味と香りの価値を生み出す宇宙コロニー・Dワールドである研究者が「禁断領域」に踏み込んだ……。


私が2023年にデンソー 先端技術研究所様で実施したSFプロトタイピングの地続き物語として執筆した「テラリフォーミング」が、2024年に早川書房から刊行された日本SF作家クラブ編のアンソロジー、『地球へのSF』に収録されています。
「テラリフォーミング」あらすじ:西暦2040年、激しい「超温暖化」により人類の生存領域が極度に狭まった地球。人間から自立したSAIボットたちは、外界から隔絶された廃棄施設で、さまざまな可能性を秘めた藻を育て研究している。16歳の少女アイも彼らに育てられ、まれにみる知的能力を開花させた。人間との接触を強く望むアイは、立ち入りが禁じられた建物に足を踏み入れ、青年ショウと出会う。やがてアイは、荒廃した地球を元の姿に戻す壮大な計画「テラリフォーミング」を議論する地球再生会議に参加。量子コンピューターのシミュレーションを駆使し、劇的な解決策を提案する。
しかし、利益を追求して通信業界を独占する巨大グローバル企業ゼノダイン社の思惑や、そしてアイ自身の出生にまつわる秘密が絡み合い、物語は予測不能な運命へと加速していく。人類の残した傷跡が大きすぎる世界で、アイは地球を救い、自分の進むべき道を見い出すことができるのだろうか?

第5回日経「星新一賞」グランプリ受賞作品「Final Anchors」は、自動運転とAI法廷の未来を考えるSFプロトタイピング的ストーリーともいえます。本作では、緊急制動システムであるファイナル・アンカーや交通管制システムであるマーキュリー・システムという具体的なソリューションを提示しており、将来的には必ず起きるであろう自動運転での交通事故について考えることができます。
「Final Anchors」あらすじ:2台のAI自動運転車が、衝突寸前の0.5秒で、なんとか生き残ろうと対話する人間の反応時間ではもはや間に合わず、相手の車両以外と通信する時間もない。AIたちによる「最後の審判」が始まる。

「スマート箱男」は第12回日経「星新一賞」にて一般部門優秀賞(HEBEL HAUS賞)を受賞した作品です。こちらもスマート段ボールや自動物流といったSFプロトタイピング的アイデアが含まれています。
「スマート箱男」あらすじ:暗号資産バブルが弾けて無一文となった俺は、解雇され、家も手放した。公園で路上生活を始めた俺はスマート段ボールを手に入れるが……。
私が作品を執筆するとき、そしてワークショップに参加するときは国際バカロレアの「知の理論」の方法論を参考にしています。たとえば、異文化理解、多様性への配慮は、SFと通じる点があります。異星人、AI、ロボットとの対話は、ある意味、究極的な異文化理解や多様性配慮といえるでしょう。
SFプロトタイピングのワークショップに興味を持たれた企業・組織の方は、お気軽にご連絡ください。
SFプロトタイピングについては今後も記事を書きますのでご期待ください。
SFプロトタイピングの基本
- 講座・SFプロトタイピング 入門(AEON・KDDI主催)
- まずは映像でSFに慣れる【#SFプロトタイピング】
- SFプロトタイピングで大切な3つのO(オー)
- 物語・言葉・想像力―なぜSFプロトタイピングなのか
- SFプロトタイピングでの触媒物語と地続き物語の違い
SFプロトタイピング事例
- SFプロトタイピング短編「Dワールド」(『鏡の国の生き物をつくる SFで踏み出す鏡像生命学の世界』に収録)
- SDQs(QunaSys様)(SFプロトタイピング事例)
- デンソー 先端技術研究所様(SFプロトタイピング事例)
- 小岩井乳業さんでのSFプロトタイピング事例
- SFプロトタイピング事例:あるメーカー開発部門様(2022年)
SFプロトタイピング関連のイベント
- JAXA筑波宇宙センター50周年記念式典で記念講演しました
- 【動画】未来を創る: SFプロトタイピングとスタートアップの挑戦
- 第10回G1ベンチャー「SFプロトタイピングとスタートアップの社会実装」に登壇
- コニカミノルタの神谷泰史さんとの対談
SFプロトタイピングのワークショップ
カスタマイズした2日間の集中ワークショップ(オンライン、実地訪問。すべて英語でも実施可能)
- SFとはなにか
- SFの位置づけ
- SFが予言し現実化した技術
- なぜSFを読むのか
- どんなトピックやテーマがあるのか
- サブジャンル:古典SFサイバーパンク、スチームパンク……
- 成都SFミュージアム(中国での『三体』他SFの取り組み)……など
- SFプロトタイピングの手法
- 読むワークショップ
- 物語の構造を知る
- 「良い」問いかけをする
- 触媒物語を読む……など
- 書くワークショップ
- 物語執筆を旅に例えると
- アイデアをメモするツール―OneNote
- プロット執筆の方法……など



