NotebookLMで文芸翻訳

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NotebookLMを使うと、文芸翻訳の下訳作業を楽にすることができます。

参考:AIを小説に活用する――NotebookLM

文芸翻訳は時間と費用がかかるわりには非常に困難な作業です。日本文学には過去から現代まで優れた作品が多数ありますが、単に翻訳されていないというだけで世界に知られていないのは残念です。NotebookLMで少しでもその作業を楽にできるなら大きな意味があります。青空文庫などを英語や他の言語に翻訳して紹介することもできるようになるかもしれません。

NotebookLMのチャットでもレポートでも翻訳は実行できますが、長文の場合はレポートのほうが良いでしょう。「日本語に翻訳して」というシンプルなプロンプトだけでも文学的な分析付きで翻訳できます(解説が不要な場合は「解説なしで」のように指定できます)。一般的に、断片的な文章よりも文脈が分かりやすい、ある一定の長さの文章の方がよりよく翻訳できます。ただし、小説のように非常に長い文章ではレポートの生成自体に失敗することがあります。

さて、結果はどうだったでしょうか。チャールズ・ディケンズ著『クリスマス・キャロル』を例にしましょう。この大文学者の死から100年以上が経過し、著作権保護期間が満了しているため、パブリックドメインにあり、誰でも自由に利用できます。こんなお話です。

以下はその冒頭の一部です。原文はThe Project Gutenbergより。

“Don’t be cross, uncle!” said the nephew.

“What else can I be,” returned the uncle, “when I live in such a world of fools as this? Merry Christmas! Out upon merry Christmas! What’s Christmas time to you but a time for paying bills without money; a time for finding yourself a year older, but not an hour richer; a time for balancing your books and having every item in ‘em through a round dozen of months presented dead against you? If I could work my will,” said Scrooge indignantly, “every idiot who goes about with ‘Merry Christmas’ on his lips, should be boiled with his own pudding, and buried with a stake of holly through his heart. He should!”

“Uncle!” pleaded the nephew.

“Nephew!” returned the uncle sternly, “keep Christmas in your own way, and let me keep it in mine.”

“Keep it!” repeated Scrooge’s nephew. “But you don’t keep it.”

“Let me leave it alone, then,” said Scrooge. “Much good may it do you! Much good it has ever done you!”


NotebookLMに翻訳させるとこうなります。


「怒らないでくださいよ、おじさん!」と甥は言った。

「他にどうなれるというのだ」と叔父は返した。「こんな馬鹿ばかりの世界に住んでいて。メリー・クリスマスだと! メリー・クリスマスなんてくそくらえだ! お前にとってクリスマスなんて、金もないのに請求書の支払いをする時、一歳年を取るだけで一時間も豊かにならないと気づく時、帳簿を締め、その中のあらゆる項目が丸一年分、お前に不利な証拠として突きつけられる時、それ以外に何だというのだ? もし私の思い通りにできるなら」とスクルージは憤慨して言った。「『メリー・クリスマス』と口にして歩き回る馬鹿は皆、自分のプディングで茹でられ、心臓にヒイラギの杭を打ち込まれて埋められるべきだ。そうすべきだとも!」

「おじさん!」と甥は嘆願した。

「甥よ!」と叔父は厳しく返した。「クリスマスはお前のやり方で祝い、私には私のやり方で祝わせろ」

「祝うですって!」とスクルージの甥は繰り返した。「でも、おじさんは祝っていないじゃないですか」

「では、放っておいてくれ」とスクルージは言った。「それがお前に大いに役立つといいな! これまで大いに役立ってきたのだろう!」


けっこうできていますね。口調に一貫性があり、主語の省略もほとんどできています。”keep Christmas”を「クリスマスを祝う」と訳すのもいい感じです。
ただ、細かい点は除いたとしても、他の部分も含めて見ると以下の問題点があります。

  • こなれていない訳に改善の余地がある
  • 不要な繰り返しがある
  • 自称・他称の混乱(まれに他人への呼びかけ方などが変わることがある)
  • 固有名詞の訳し方が不適切なことがある
  • 自然な訳し方でない場合がある

翻訳の品質をさらに上げるにはいくつかできることがあります。

  • 用語集を作らせる:結果を確認して修正する。プロンプト例:「対訳用語集を作って」
  • 対訳表を作らせる:センテンスごとに分割して翻訳元言語と対象言語を表形式で比較して確認する。かつては「翻訳メモリー」と呼ばれていたもの。

これらを作成した後は、Markdown形式でソースに追加して、再度翻訳を実行します。NotebookLMの利点は、システムにフィードバックしてさらに良い結果を出せるようにできることです。長い作品では短い部分に区切って品質を確認するのも有効です。

結局のところ、よりよい結果を得るなら任せっぱなしではなく、きちんと結果を確認できる能力を持つ翻訳者が使ってこそ、真価を発揮できるのかもしれません。今後も性能は向上していくとは思いますが。

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