大阪・関西万博についてはIR開発との関連、費用と税負担、安全性など様々な意見がある。だが70年万博では小松左京らが太陽の塔の地下展示に関わったということもあるし、SFプロトタイピングにかかわる作家として、未来をどこまでどのように見せるかという点も気になる。そこで大型連休真っただ中の2025年5月4日に大阪・関西万博に行ってきた。来場したのは1日だけで、見られたのはごく一部だが、いろいろと考えるネタとなった。
必要な情報がネットで手に入る時代に万博を開く意義は何か。1日かけて5~6のパビリオンしか回れず、人気のあるパビリオンでは1時間以上待たされる。各パビリオンには十数分から長くても1時間程度の滞在となり、待ち時間のほうが多い。それでもあえて行く意味はあるのか。SF作家をうならせる展示はあったのか?
結論としては、半年の万博では余裕のある体験や持続可能性と両立するのは難しい。長期的にはいっそ未来実験都市を作るのが良い。万博は、腰をすえてじっくり特定テーマを深堀りするのではなく、新たな発見や気づきを得る場だろう。その意味では確かに有意義だった。
万博全体
映像よりももっと実演を増やしてほしい。展示で来館者の時間は限られているため、要点を短時間でまとめられる映像主体になりがちだ。現地の映像は大画面で見られる利点があるとはいえ、直接行く意味が薄れる。
また(後でデモが復活するかもしれないが)空飛ぶクルマも飛んでいなかった。Tesla Bot程度のロボットは会場をあちこち歩いてほしかったが一体も見られなかった(保安ロボットはいた)。
紙の配布物をやたらと配らないという方針は良い。だが万博用アプリは多数ありすぎるし、ユーザー体験が洗練されておらず使いづらい。
国内パビリオン
事前に予約できた「未来の都市」に行った。人間の歴史の振り返りはもっと簡潔でよい。コモン展示01のキューブは音声が干渉して聞き取りづらいうえに字幕も動画も見づらい。そもそも「都市」は必ずしも未来の理想ではないだろう。ここに新しい発想が欲しい。

四脚ロボットCORLEOは興味深かったが、動かないモックアップだった。すでに製品化が決定したモノの展示だと未来感がないのかもしれない。ネットで情報公開する時代に、「隠し玉」は用意しづらいのかも。
いろいろ気になる点はあったがある程度の未来感はあった。現状に決して満足せず未来予測の先を行くのは SF 作家の仕事。
赤十字による「未来の野外診療所」の電動猫車は、がれきの上を乗り越えて走れる。災害時に実用的で、ぜひ広まってほしい。

各国パビリオン
外国嫌いと外国崇拝が極端な日本で、万博は世界と直接触れ合える貴重な機会でもある。各国の人々が一堂に会する場は、私が高校時代を過ごした国際教育組織UWCのイギリス校を思い出した。民族衣装を着た展示国スタッフはもっと多くいてもよかった。
158の国と地域が参加するこの万博では、日本と世界の関係、国の位置づけを改めて考えさせられた。小さい国々は、運営側の事情や課題に責任がないのに、万博批判のあおりをくらってかわいそうだった。
エジプト館は映像と写真展示のみであっさりしすぎ。来場者の関心は高いはずなのでもったいない。係員は映像を機械的に案内するだけだった。
マルタ館では観光の担当者によるプレゼンがあった。英語でのプレゼンだったが熱意がこもっており、映像を見て終わり、というだけでないところがよい。

チェコ館。日本語を話せるガイドが頑張ってガラスのアート作品を紹介していた。こういう努力をたたえたい。展示国スタッフはせっかくなので万博を日本語を学ぶ機会にして、架け橋となってほしい。人形劇などのパフォーマンスもあったが時間がなく断念した。

スペイン館。各国パビリオンの展示内容は、その国が見せたがっているイメージであるとしてもそれはそれで興味深い。すでに知られていること以外に、あまり知られていない面も見せられるとよい。その意味でスペイン館はそのバランスが良かった。また海藻の活用の展示があった。私は「テラリフォーミング」で藻による生態系改造を書いたので興味深かった。

サウジアラビア館。次回の万博開催国である。パビリオンは建物も展示もお金がかかっており、よくできている。前庭には現地の植物が植えられ、工芸品も展示されている。万博展示ではモノばかりでなく、人物にもフォーカスするのが正しいように思える。その点でサウジアラビアはスポーツ選手や女性科学者を紹介していた。ただこの国のあまりに野心的なプロジェクトについて後で調べて、いろいろと考えさせられた。SF的ではあるのだが。




どこの国もせっかく進歩した自動翻訳を活かせていない。これはもったいない。
全体的に、私ならこうやりたい、こうできるのにと考えた。これは次の作品に生かすことにするが、次に似た機会があれば企業さんはぜひお声をかけてください!